体を効率よく使うのは、何もしないとか、ただ楽であるとは全く違います。

効率というと省エネ。

省エネとは使わない。

という判断でしか捉えられない人が多いように見えます。

家電の省エネになるためにどれほど技術者の努力がこもっているのか?

使う側からの立場からだと「楽ちん」とから「使わない」になるのかもしれませんが……

効率よく使うためには、その人自身の体の使い方の癖に向き合う必要があります。

その癖とは、自分が普段使っている筋肉と使っていない筋肉が大きく関わってきます。

他人の単純動作を見ていると、その人が得意とする筋肉(普段使っている筋肉)と不得意な筋肉(普段全く使われていない筋肉)が存在します。

若いうちならば、自然と不得意の筋肉も使われますし、得意な筋肉もしっかり強く楽に使われます。

しかしある一定以上の年齢になると、得意な部分の筋肉も意識していないで使っているために負荷がかかり思うように使えなくなってきます。

不得意な筋肉がもし使えていたならば、その得意な筋肉に対する負荷は遥かに軽減されて、バランスの取れた使い方になるのですが、それらは全て無意識下に行われているので自分の力だけではどうする事も出来ないのか現実です。

私の仕事は、その使われない筋肉が何かに気付いてもらい、使える様に整えて、ほんとうの効率の良い身体の使い方を習得してもらうお仕事だと思っています。家電でいうとメーカーの技術者ですかね?(しつこい)

さて、ここからはタイトルのお話です。

私は歌手の人たちに体の使い方を教える事が多いのですが、自分の身体と向き合うべきな声楽の人こそ、ここの部分に目を向けていない人が多いのです。

「技術と筋力」

声楽の人の殆どは40代になって「若い頃は楽々出た音」が出せなくなってきます。

高音が出せなくなったり、若い頃のような声が出なくなり、そこから目を逸らすように「表現力」という上手い言い方で声()を鍛えず、力を抜いた「歌い回し」に逃げてしまいます。

若い時には張りがあり芯のある強い声が出ていた人が、40代くらいから「響きのある」()というただボヤッとした息まみれの、芯のない声になってしまった歌手を沢山目の当たりにしてきました。

身体の機能に沿った発声の仕組みを正しく理解していないから起きてしまう事象です。(こんな書き方したら怒るかな?でも真実だし)

きっとご本人達も試行錯誤した結果、仕方無くそういう声を出す方向にいかれてしまったのだと思いますが、もうそれはクラシカルなベルカント唱法では全くありません。

何故歌えなくなるのか?

そこには「技術」ではなく「筋肉の罠」があるのです。

歌手の方達は「発声テクニック」という言葉をよく口にしますが、私はテクニックよりも「筋肉」の使い方と「筋肉量」にあると思います。

ただスポーツジムで行うような筋肉を鍛える事ではありません。

声を出すメカニズムに沿った「筋肉」が必要なのです。

そのメカニズムを最大限に使ってマイクを使わず、大きなホール内を隅々までオーケストラにも負けない声を届かせる必要があるのです。

私のレッスンでは、その為にその人に必要な筋肉のエクササイズを渡します。

初回のレッスンでは必ずエクササイズをそれぞれに渡しています。

そしてそのエクササイズを正しく行うと声がでるようになるのです。

もちろんやってこない人もいます。そんな人は正直変わりませんが、いろんな角度からそれができなければ次にいけないことを指導していきます。逆にこの段階でレッスンを辞めてしまう人も多いと思います。何故ならとても面倒臭く、すぐに変化が起きないからです。

ま、そんなことは放って置いて、エクササイズで声が出るようになった人の話の続きです。

エクササイズによって声が出るようになってからが問題なのです。

殆どの人はこの「声が出るようになった時」からエクササイズをやらなくなります。

何故なら「歌う(声を出す)テクニックが付いたと勘違いをするからです」

それでも付いた筋肉のお釣りで暫くは声が出ます。

その間のレッスンでドンドン次の課題や訓練は進んでいきます。

しかし時が経てばエクササイズを怠けた事による問題が生じるのです。

課題と訓練は進んでいるにもかかわらず、声が自在に出ない。

何故ならば最初に渡したエクササイズを辞めてしまった段階から、必要な筋肉を使わず(使えず)本来の自分の得意な筋肉でやり始めてしまうので、やはり良い声に支障が出てくるのです。

何故エクササイズを止めるのか?

ここが1番の問題点です。

最初に渡すエクササイズは、その人にとって「一番必要で一番足りない部分」を私は渡しています。

それなのにエクササイズを辞めてしまう……

何を考えているのだろう……

私はレッスンをしていてある事に気が付きました。

それは「技術」と「筋力」をごちゃ混ぜに考えている人が多過ぎるのです。

私はあんなにも口を酸っぱくして「エクササイズを続けてください」といっても、まじめにずっとエクササイズをされる方は1割位しかいません。

本当に………残念です……

歌えるようになった

声が出るようになった

これは技術ではなく筋力です。

(あくまでも私のレッスンの中では。)

技術とは

自転車に1回乗れるようになったら、何年経ってもまた自転車に乗ったら乗り方を思い出して乗れる事です。

筋力とは力です。

懸垂が10回出来るようになって、その後何もせず腕を使わずにいたら懸垂が10回楽々出来ると思いますか?

思いませんよね。

それと同じ事なのです。

歌手の人達は「筋力」を「技術」だと思ってエクササイズをしなくなるのです。

歌っていれば大丈夫だと大きな勘違いをするのです。

ずっと歌っていたのに声が出し辛くなったんですよね?

だから私の所に通っているのですよね?

ただ言われたように歌っていれば筋肉が保てると思われているのでしょうか?

エクササイズを続けてやっと出来た筋肉はその筋トレなしに出来るわけが無いのです。

だって本来の使い方はそこを使わないでやっていたのですから。

とても残酷な言い方ですが、それが事実です。

私のところには何年も継続されて来てくださる方が殆どですが、何年か後にその音や発音やフレーズが歌えない事象が起きた時、大抵は最初の頃に習った体の使い方が原因になるのです。

口の形が出来ていない。

それにはさまざまな原因があります。

その為にエクササイズを渡します

母音や子音の変化で音色が変わってしまう。

それが統一できるようなエクササイズを渡します。

そして、どれもできるようになったらエクササイズを辞めてしまう。

エクササイズをするもしないもご本人の問題なので、私はとやかく言いませんが、出来なくなった時「テクニック」と思っている時点で間違っているのです。

その「テクニック」と思っている筋力がなければできないのですから。

歌手の人達は「支え」という言葉を良く使います。

支えるには力が必要だということは分かりますよね。

では支える力はどの位使うかわかりますか?

正しい声を出す為には最低でも「40kg」の力が必要な事も生徒達にはレッスンを通して指導していきます。

その最低40kgの力はどうやって出すのか?

歌っている最中ずっと40kgの力が必要になるのです。

40kgは相当の力です。

声をコントロールすることはそれ程大変なのです。

音楽家は「感覚」が良い人が多いと思います。そして感覚では無い、整理された地道な「筋トレ」は苦手な人が多いように思えます。

しかし世界で活躍している演奏家は演奏技術を「感覚的」なものと捉えていない人が多いのです。

しっかりとした科学的な理論の上に理性的に判断しながら自分の「技術」を付けていくのです。

客観的に自分の身体と演奏を判断出来る人にならなければ良い音は出せません。

まず「技術」と「筋力」を一緒に考えないと事がとても大切な事であり、自分の技術を高めていける最初の1歩になると思います。

私は生徒達に声を大にして言います!

「エクササイズしなくなったら出来なくなりますよ!あなたの本来の体の使い方にはその部分を使う選択は持っていないのですから。やってください!」

そしてもう一つ

「筋肉は何歳からでも鍛えられます!年齢は言い訳にはなりません!」

以上。